障がい特性を踏まえた刑法性犯罪改正を求める要望書

法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会が2023年2月3日に公開した、性犯罪改正に対する「要綱(骨子)案」[1]を踏まえ、この改正が、障がい特性、ならびに障がいのある人への性犯罪の実態を踏まえたものとなるよう、以下を要望いたします。

1.意志形成について
・国連・障害者権利委員会は、現行刑法第百七十八条の「心神喪失」に「障害」を含めていることは「侮蔑的」であることを指摘、「除く措置」を求めています[2]
・要綱(骨子)案では、「心身に障害があること」を、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」に含めています。しかし障がいのある人は、それぞれの方法で、自らの意志を示します。障がいがあることをもって「意思を形成できない」とするのは、現行刑法の「心神喪失」と等しく、侮蔑的です。このため諸外国では、「不同意性交等罪」とは別に、「障害に乗じた性犯罪」を設けています[3]
・これらを踏まえ、障がいのある人の意思形成を考慮した改正を求めます。

2.対人援助職という地位・関係性について
・障がいのある人にとって、福祉職・医療職・教育職といった「対人援助職」の者は、生活を共にし、身の回りの世話をする「監護者」同等の立場にあります。
・要綱(骨子)案は、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮していること」を規定しています。しかし障害の程度[4]によっては、他者に対し、「不利益」を「憂慮」することが、困難な場合があります。対人援助職の指示には「従うのが当然」と考えていることもあります。
・これらを踏まえ、対人援助職を含めた「地位・関係性」を考慮した改正を求めます。

3.(1・2が困難な場合)今国会で刑法性犯罪改正を実現した上で、議論を継続してください
・「障害者の権利に関する条約」が定める「司法手続の利用の機会」[5]の早期実現に向け、今国会で刑法性犯罪改正を実現し、「障がい」の概念を刑法に盛り込むことが必要であると考えます。
・障がい特性、ならびに障がいのある人への性犯罪の実態を踏まえた議論を、継続してください。


[1]法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会『要綱(骨子)案』
[2]障害者の権利に関する委員会「初回の日本政府報告に関する質問事項」国際連合『障害者の権利に関する条約』
[3]『諸外国の性犯罪関連規定(仮訳)』法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会 第1回会議配布資料
[4] 例えば知的に障がいがある人の学力は小学校5~6年生程度とされる。「発達障害の程度の指標」(厚生労働省の知的障害者実態調査(1975)における知的障害の程度に関する判定資料)
[5]『障害者の権利に関する条約』第十三条

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